月夜の終わりに
また1つ、愛したものを見送った
推しと呼べる存在の中で、群を抜いて付き合いの長い子だった
笑い声を聞いているだけで元気をくれる、不思議な魔法を持った子だった
無軌道ながら人を惹きつける雑談は天性の才能で、あるときは毎回リアタイで積極的にコメントを書き、あるときは作業中の BGM として、自分の生活に溶け込み、いつだって力をくれる存在だった
彼女はあの箱がまだまともな会社の体すら成していなかった時期にデビューし、押しも押されぬ業界の二大巨頭にまで押し上げた、その中核たる世代である
本人が卒業前日の雑談で「(ここまでの) 人生の頂点」として語ったのは4年ほど前の時期は、まさにその急成長期に当たる
彼女らにとってあの箱は荒野に自分たちで創り上げた美しい結晶のような存在であり、それを手放すこと、また戦友たる他メンバーと道を分かつのはきっとすごくつらい選択であったのだろうと思う
2019年末の年越し公式生放送で自身の生出演中に登録者10万人を突破し、共演者から祝福を受けていた彼女が昨日のことのように思い出される
「みんなの末っ子」であった彼女は知名度の上昇に呼応するかのようにすごい勢いで「大人」になっていき、往々皮相に理解される子供じみたキャラ付けとは対象的に、どこか切ないほどに大人びた考えを度々覗かせるようになった
人付き合いや努力などに対する考え方、自己に対する評価、死生観に至るまで、彼女の価値観にはいずれも悟りとも表現すべきような諦観が通底しており、あの年齢でそれが醸成される背景が思いやられるというものである
卒業の報を受けて寂しさがあったのはもちろんだが、どこか納得や安堵に近い感情もあった
彼女が長らく苦しんできた精神的な病や、時折口にする悟ったような人生観に触れるにつけ、今の環境は彼女の長期的な幸せには繋がらないのではないか、という感覚も少なからずあった
あのレベルの知名度でインターネットで活動することそのものが精神的に大変に高負荷なのだろうと思うし、入った当時とはあまりに桁違いの稼働量に苦しんでもいたのだろう
精神的な病と闘いつつ、休止を挟みながらもこれだけの長きにわたって活動を続けてくれたことには心から感謝するのみであるが、彼女が自分を大切にする自分のための道を歩みだしてくれることもまた、1人のファンとして幸せなことだと思う
彼女が卒業ライブで読み上げてくれた手紙における、「少しでも自分を大切にしてあげたいと」思えるようになった、とはまさにこの文脈の言葉であった
どこまでもリスナー想いで誠実な子だった
卒業発表後表では度々口にした「忘れてくれていい」という言葉や、配信活動終了ではなく卒業の形であったのも、リスナーに未練を残さないためとの明確な彼女の意思、気づかいである
卒業前最後の1週間は他メンバーとのコラボが主となるなどいくつかの面で彼女の通常の活動と異なるスタイルであったが、彼女はこれについても (この場に記述できないものの) 誠実に説明を行い、それもリスナーへの徹底した謝意と気づかいに溢れたものだった
その考えの深さと誠実さに改めて驚かされたのが印象深い
卒業の前日、すごい曲が出てきた
7拍子と6拍子と4拍子の混ざるとんでもない変拍子はこの際置いておくにしても、2010年代ボカロのような言葉遊びにダークな曲調を主に好んでリリースしてきた彼女から、あそこまでストレートな感情表現のアコースティックな曲が出てくるのは相当に意外だった
活動初期から一貫してリリースする曲や歌ってみた、ライブの作品としての完成度にこだわっていた彼女だから、一度きりの披露になったこの曲を、涙で完全には歌い切れなかったことを悔いているかもしれない
しかしあえて私見を述べるならば、あのライブ・あの曲は、あの涙をもって完成したのだと思う
落ちサビ末「『忘れて』なんてね」に対して喉から必死に絞り出したかのような「嘘だ」はこれ以上なく真に迫っていて、彼女が卒業直前からところどころ窺わせていた本心の、最高級の発露だった
「傷になったって 覚えていて 忘れないでいて」
すごい歌詞を、言葉を投じてくれたものだ
1つの物語として、これ以上ないほど美しい結末だったと思う
自分自身すごく心を動かされ、泣きながらも笑って彼女を送り出すことができた
こんなにも綺麗に別れを告げさせてくれたこと、心から感謝と言うほかない
彼女をきっかけに好きになったもの、教えてもらったことがたくさんあり、今の自分があるのは彼女のおかげでもあって
これからもそういった物事に触れるたび、きっと彼女を思い出すのだと思う
これまで計り知れないほどの幸せをくれた彼女に、今度はたくさんの幸せが訪れますように
長い間本当にお疲れさまでした
まずは心ゆくまでゆっくり心身を休めてください
自分のための道を選んでくれた彼女を心から応援しつつ、彼女からもらったかけがえのない思い出を胸に、自分も必死に生きていく
そして、あなたが約束してくれたように、いつかどこかでまたあなたに会える日を楽しみにしています
大すき!
行ってらっしゃい
またね!!